DVで離婚できる?慰謝料や離婚する方法を弁護士が解説
DV事案では、まず被害者の方の安全確保が最優先となります。
そのため、DV離婚は通常の離婚事件と進め方や注意点が異なります。
ここでは、DVやDV加害者の特徴等を踏まえ、DV加害者と離婚する際の慰謝料やそれ以外の条件、手続きの進め方、注意点などについて解説していきます。
DVとは
DVとは、ドメスティック・バイオレンス(Domestic violence)の略称で、家庭内暴力のことをいいます。
典型的には、夫から妻への暴力をいいますが、妻から夫への暴力もあります。
親から子どもへの暴力(虐待)も、広い意味でのDVに当たります。
また、法律上の夫婦間の暴力に限らず、事実婚の夫婦や、恋人など、親密な関係にある人の間における暴力も一般にDVと呼ばれています。
DVには5つの種類がある
1 身体的DV
殴る・蹴るなど、肉体に直接振るわれる暴力を身体的DVといいます。
人の身体や生命に対する不法な攻撃であり、刑法上の暴行罪や傷害罪などの犯罪にも該当し得ます。
具体例 身体的DV
- 殴る
- 蹴る
- 押し倒す
- 物を投げつける
- こぶしを振り上げる
- 刃物を突き付ける
- 髪の毛を引っ張る
- 拘束する
2 精神的DV
言葉や態度によって相手を精神的に追い詰めたり、相手の人格を否定したりする行為を精神的DVといいます。
精神的な暴力のことを「モラル・ハラスメント」(略して「モラハラ」)といいますが、精神的DVは家庭内で行われる精神的暴力のことであり、「家庭内モラハラ」と同じ意味となります。
具体例 精神的DV
- 無視する
- 大声で怒鳴る
- 馬鹿にする
- 「誰のおかげで生活できると思ってるんだ」などと言う
- 交友関係や行動を監視する
- 外出を制限する
精神的DVについて、詳しくはこちらをご覧ください。
3 性的DV
性的に危害や苦痛を加える行為は性的DVに当たります。
具体例 性的DV
- 嫌がっているのに性行為を強要する
- 避妊に協力しない
- 子どもができないことを一方的に責める
- 中絶を強要する
性的DVについて、詳しくはこちらをご覧ください
4 経済的DV
お金によって相手を支配したり、相手に苦痛を与えたりすることは経済的DVに当たります。
お金によって相手を精神的に追い詰めていくものであり、モラハラの一種です。
具体例 経済的DV
- 収入があるのに生活費を渡さない
- 配偶者が外で働いて収入を得ることを妨げる
- 配偶者の貯金を勝手に使う
- 配偶者名義で勝手に借金を作る
- 浪費を繰り返す
経済的DVについて、詳しくは下記のページをご覧ください。
5 デートDV
交際中のカップル間で起こる暴力のことをデートDVといいます。
具体例 経済的DV
- LINE等のSNSで即レスがないと怒る
- SNSで監視する
- 別れたら自殺すると言う
- プレゼントを強要する
- アルバイトのお金を要求する
- 性行為を強要する
- 友達の前などで暴言を吐く
デートDVについて、詳しくはこちらをご覧ください
DV加害者の特徴
相手をコントロールしようとする
多くのDV加害者は、相手を自分の思い通りにコントロールしようとします。
「自分には相手をコントロールする権利がある」と思っているという点も特徴といえます。
そのため、相手を尊重せず、モノのように扱うことがあります。
自分は正しいと思っている
DV加害者は、自分は正しく優れており、相手は間違っていて劣っていると考えていることが多いです。
自分が相手に振るった暴力についても、悪いと思っていないことがあります。
殴る・蹴るといった暴行をしたことを認めながらも、「相手が反抗したのでおとなしくさせるために殴ったに過ぎない」「悪いのは相手である」などと言い訳するようなケースも珍しくはありません。
外面が良い
DV加害者は、家庭の中では暴力的・威圧的であっても、家庭の外ではおとなしかったり、「いい人」と思われるように振る舞っていることが多いです。
そのため、被害者が周囲の人に相談できない状況に陥ってしまったり、相談をしても「あの人がそんなことするはずない」「あなたに落ち度があったのでは?」などと言われてしまい、助けを求められないこともあります。
束縛する
DV加害者は、被害者が自分の支配から逃げ出すことを恐れていることが多いです。
そのため、被害者のスマホの中身を勝手にチェックしたり、外出を制限したり、頻繁に電話をかけて居場所を確認するなど、監視や行動規制をすることがあります。
DV加害者の特徴について、詳しくはこちらをご覧ください。
DV被害者の特徴
DV被害者は、「自分が悪いから相手が怒るんだ」と自分を責めてしまう方が多いです。
加害者から「お前が悪い」と言われ続けることなどから、DV被害を受けていることを自覚できない場合もあります。
しかし、次のような状態になっている場合は被害者である可能性が高いです。
- 殴る・蹴るなど身体に危害を加えられたことがある
- 何をするにも相手の機嫌をうかがってしまう
- 家族や友人と疎遠になっている
- 気分が落ち込む
- 意欲が低下している
- 相手が暴力を振るうのは自分に責任があるような気がしている
DVで離婚できる?
離婚するには「離婚原因」が必要
日本では、夫婦間で合意ができる場合は、理由の如何を問わず離婚することができます。
他方、離婚の合意ができない場合は、離婚するためには、裁判所に離婚を認めてもらわなければなりません。
そして、裁判所に離婚を認めてもらうためには、「離婚原因」が必要になります。
「離婚原因」とは、離婚が認められる条件のことであり、法律で次のように定められています(民法770条1項)。
引用元:民法|電子政府の窓口
- 1. 相手方に不貞行為があったとき
- 2. 相手方から悪意で遺棄されたとき
- 3. 相手方の生死が3年以上明らかでないとき
- 4. 相手方が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- 5. その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
DVについては、上記の5.「その他婚姻を継続し難い重大な事由」として認められる可能性があります。
「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、夫婦関係が破綻し回復の見込みがない状態をいいます。
DVは、どんなに軽微なものであったとしても、相手の生命・身体、尊厳などを侵害する違法な行為であり、夫婦関係を破綻させるものであることが多いです。
しかし、DVの程度や態様、被害の状況等は事案によって様々であり、全てのDVが直ちに離婚原因となるわけではありません。
夫婦関係が破綻し回復の見込みがない状態になっているかどうかは、暴力の態様や程度、頻度、期間、ケガの有無や程度、暴力の原因や経緯、別居の有無など、様々な事情を考慮した上で、客観的に判断されることになります。
DVが離婚原因となる具体例
何度も殴る・蹴るなどの身体的な暴力を加えられ、被害者がケガをして入通院が必要になったような場合は、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして離婚が認められる可能性があります。
すなわち、身体的な暴力により被害者が重症を負ったという事情は、離婚原因として認められやすいといえます。
反対に、身体的な暴力がないケースや、被害者の身体に傷跡が残らない軽微な暴力のケースでは、離婚原因があると認めてもらうのは簡単ではありません。
DVで離婚が認められた裁判例
【 裁判例 】神戸地裁平成13年11月5日判決
結婚当初から夫の妻に対する強権的支配の下で、妻は夫に服従を強いられていましたが、妻が夫との性交渉を体調不良を理由に拒否したところ、夫から何度も顔面を殴る、腕をつかんで引っ張り、逃げようとする妻を押さえつけて髪の毛を引っ張るなどの身体的暴力を受けるようになりました。
その後、夫は身体的暴力をエスカレートさせ、性行為を強要したり、止めに入った子どもにも暴力を振るうなどするようになり、妻は子どもらとともに自宅を出て別居するに至りました。
妻はうつ病及び心的外傷後ストレス障害(PTSD)にり患し、自殺未遂を繰り返しました。
上記のような事情を認定した上で、裁判所は、「婚姻関係は修復困難なまでに破綻したものということができ、その責任は被告(夫)にあり、重大であって、婚姻を継続し難い重大な事由があるものというほかない」と判断しました。
引用元:最高裁ホームページ
DVの証拠がないと離婚できない?
相手がDVを全て認めているような場合を除き、裁判でDVを理由に離婚を認めてもらうためには、DVの証拠が必要になります。
相手がDVを否定している場合は、離婚を請求する側が「DVの事実があったこと」を立証(証拠によって裏付ける)しなければならない、というのが裁判のルールとなっています。
DVの証拠とは?
DVの証拠には、例えば次のようなものがあります。
暴力行為を受けている状況を録画・録音した記録はDVの証拠となります。
日常的に暴力を受けている場合などは、ポケットにICレコーダー等を忍ばせて、録音しておくと立証に役立ちます。
電話で暴言を吐かれるといった場合には、通話録音アプリなどを利用して通話内容を録音しておくのもよいでしょう。
暴力行為を受けた直後の部位(痣(あざ)や流血の様子等)を写真に撮っておくと、その写真がDVの証拠のひとつとなります。
自身のケガであることがわかるように、傷跡の部分と顔が1枚におさまるように撮影しておくようにしましょう。
また、DVの際に壊された物品や部屋の壁などの写真も証拠となります。
暴力行為によるケガを病院で診てもらった際の診断書やカルテもDVの証拠になります。
DVを受けてケガをした場合は、病院を受診し、医師に配偶者から暴力を振るわれた旨伝えるようにしましょう。
精神的DVや性的DVによるメンタル不調が生じた場合も、心療内科を受診し、医師に配偶者からの暴力の内容等を伝えるようにしましょう。
相手から脅迫や侮辱する内容のメールやLINEのメッセージ等が贈られてきている場合は、それ自体が言葉による暴力の証拠となります。
スクリーンショットなどで保存しておくようにしましょう。
相手にスマホの中身をチェックされていて保存できない場合は、信頼できる親族や友人にメールを転送したり、スクリーンショットを送付して保存しておいてもらうとよいでしょう。
家族や友人にDVについて相談したメールやLINE等が残っている場合、それらもDVを受けたことの間接的な証拠となりますので、スクリーンショットなどで保存しておくとよいでしょう。
警察や配偶者暴力相談支援センターなどにDVの相談をした場合の相談記録も証拠となります。
これらは個人情報開示請求により取り寄せることができます。
日記や家計簿も、毎日継続的に記録しているものであれば生活の様子を推認するものとしてDVの証拠となり得ます。
出来事があった都度、どのような暴力を振るわれたのかなどをできる限り具体的に記録しておくようにしましょう。
これら単体では客観的な証拠と比べると証拠としての価値は劣りますが、他の証拠と組み合わせることによってより暴力行為を強く推認させることが可能になることもあります。
ここまで紹介してきたようなDVの証拠を十分に集めることが簡単でないケースも多いです。
DV加害者との生活の中で録画や録音などを確保するのが難しい場合や、加害者から病院に行くことを制限されていたり、医師にDVのことを伝えることができずに診断書などを入手できない場合もあります。
このような場合は、陳述(自身の認識を述べること)が重要になります。
具体的には、陳述を書面にした「陳述書」を作成したり、「尋問」という手続きで認識を述べるという方法をとります。
ただし、人は一般に見間違いや記憶違いをしたり、ウソをつくこともあるため、録音や写真などの客観的な証拠よりも証拠としての重要性は劣ります。
DVの事実を間接的にでも裏付ける写真やメール・録音などの客観的な証拠がない場合、陳述だけでDVの事実を認めてもらうのが難しいことも多いです。
そのため、スマホをうまく利用するなどして、できる範囲で客観的な証拠を集めておくようにしましょう。
以上、DVの証拠の例をご紹介しましたが、集めるべき証拠や、証拠の収集方法は事案により異なります。
具体的にどのように証拠集めをすればよいかについては、専門の弁護士に相談することをおすすめいたします。
DVで離婚と慰謝料
DVを理由に慰謝料が認められる?
慰謝料とは、相手の加害行為によって受けた精神的な苦痛をつぐなうためのお金のことをいいます。
DVは、それ自体、人の生命・身体や尊厳を侵害する行為です。
また、DVは夫婦関係を破綻させる行為であり、離婚原因になり得ます。
そのため、DVを理由に離婚する場合は、①DVそれ自体によって被った精神的苦痛や、②DVによって離婚せざるを得なくなったことに対する精神的苦痛を対象に、慰謝料を請求することができます。
(理屈上、①と②は別物ですが、裁判実務では離婚に伴う慰謝料として①②まとめて請求・認定されることが多いです。)
ただし、DVに該当する行為(殴る、蹴る、侮辱するなど)があれば、どのような場合でも慰謝料請求が認められるというわけではありません。
DVに該当する行為がどの程度悪いことなのか(これは専門用語で「違法性」といわれるものです。)ということも問題となります。
どの程度悪ければ慰謝料が認められるかについて、明確な基準はなく、DVの態様や被害の大きさなど具体的な事情に基づいて個別に判断されることになります。
長期間にわたり繰り返し身体的な暴力が振るわれたようなケースでは慰謝料が認められやすいですが、身体的な暴力がないモラハラの事案であっても内容等によっては慰謝料が認められる可能性はあります。
このように、慰謝料の見通しについては、具体的な事情に即した判断が必要ですので、専門の弁護士に相談されることをおすすめいたします。
DVの慰謝料の相場
事案により幅がありますが、50万円から300万円程度になる事案が多い傾向にあります。
また、ある裁判官の論文によると、暴力に関する離婚慰謝料請求での平均認容額(裁判で認められた金額)は123万円とのことです。
※2012年4月から2013年12月の間に東京家裁において終局した離婚事件のうち慰謝料が審理の対象となり判決が出された事件が対象
引用:神野泰一裁判官「離婚訴訟における離婚慰謝料の動向」(ケース研究322号)
もっとも、慰謝料の金額は、暴力の態様・回数・期間、被害の大きさ、結婚期間など様々な事情が考慮されたうえで判断されるため、事案によっては慰謝料が高額になる場合もあります。
例えば、先ほどDVで離婚が認められた裁判例として紹介した神戸地裁平成13年11月5日判決では、被害者の被った精神的苦痛が甚大であることなどが考慮され、慰謝料として800万円が認められています。
DVで離婚で検討すべき慰謝料以外の条件
離婚をする際には、慰謝料以外にも親権、養育費、面会交流、財産分与、年金分割等についても取り決める必要があります。
子どもがいる場合
夫婦の間に未成年の子どもがいる場合は、親権、面会交流、養育費が問題となります。
親権とは、子どもの監護(面倒をみること)や教育、財産管理の権利・義務のことであり、子どものいる夫婦が離婚する場合は必ずいずれかを親権者として定めなければなりません。
面会交流とは、子どもと離れて暮らす親が子どもと会うなどして交流することです。
養育費とは、子どもの生活費のことで、親権者とならない側が親権者に対し、原則子どもが成人するまで支払うものです。
離婚と子どもについて、詳しくはこちらをご覧ください。
DV事案の場合
DVの態様や影響は様々であり、DV加害者であることをもって、直ちに親権者としての適格性が否定されたり、面会交流が制限・禁止されたりするわけではありません。
しかし、DVは子どもに深刻な影響を及ぼします。
子どもに対して直接の暴力がない場合であっても、両親間のDVが子どもの心に傷を残していたり、子どもが様々な葛藤を抱えているケースもあります。
これらを踏まえて、子どもにとって何が利益になるかという観点から親権や面会交流の取り決めをする必要があります。
もっとも、DV加害者は、子どもの利益というよりも、子どもへの執着や、被害者の意向通りにしたくないという思いから親権を主張したり、面会交流に関して過剰な要求をしてきたりすることもあります。
このような場合、被害者が自分で対応することは非常に困難です。
子どもの利益のためにも、ご自身の安全確保のためにも、DV問題に強い弁護士に相談し、対応してもらうようにしてください。
また、養育費についても、子どもの生活のための重要なお金ですので、弁護士のサポートを受けて適正額を確実に支払ってもらえるように取り決めるようにしましょう。
財産分与について
財産分与とは、離婚に伴い夫婦の財産を分け合うことをいいます。
財産分与をする場合、結婚後に夫婦の生活のために取得した財産は、どちらの収入で得たか、どちらの名義になっているかを問わず、基本的に半分ずつ分け合うことになります。
そのため、自己名義の財産の方が少ない場合は財産分与を請求することができます。
財産分与は、結果次第では離婚後の生活費を確保することもできるため、請求できる場合はきちんと請求することが大切です。
請求においては、まず夫婦の財産の全体像を把握することが重要なポイントとなります。
しかし、DV事案の場合、加害者が被害者に収入や資産のことを一切教えていないようなケースもあり、被害者が加害者名義の財産を全く把握していないということもあります。
そのような場合、できる限り別居前に相手名義の財産の資料(預金通帳、保険証券など)を調べ、コピー等をとっておくことが必要になるため、別居前に専門の弁護士に相談し、具体的なアドバイスをもらうようにするとよいでしょう。
年金分割
年金分割とは、離婚する際、夫婦が加入していた厚生年金の保険料給付実績のうち、報酬比例部分(基礎年金部分は対象外とされています)について、多い方から少ない方へ分割する制度です。
年金分割については制度が難しく、手続きも煩雑ですので、詳しくは離婚問題に強い弁護士に相談されることをおすすめいたします。
DV離婚の進め方
DV離婚の手続きの流れ
①弁護士に相談
まずはDV問題に詳しい弁護士に相談するようにしましょう。
被害者の方は、DVによる恐怖心や無力感などから、どうしたらよいのかわからない状態になっていることも少なくありません。
そのような場合でも、弁護士に状況を整理してもらったり、安全確保の手段や離婚に向けて進めていく場合の見通しなどについて助言をもらうことで、今後について具体的に考えられるようになっていきます。
②安全の確保
DV離婚においては、何よりも安全を確保することが最優先事項となります。
現在加害者と同居しており、近日中に別居したいと考えている場合は、安全な避難方法、避難先、必要な持ち物等について、弁護士から助言を受けるようにしてください。
危険性が高い場合は、警察への相談、配偶者暴力支援センターへの一時保護の要請、保護命令の申立てなども必要になります。
加害者に避難先を知られないようにするための対応策も必要です。
加害者からの追跡が予想される場合は、警察と連携して加害者からの捜索願を受理しないよう要請します。
また、住民票を移す場合は、役所に申し出ることにより、加害者による住民票や戸籍の附票の閲覧等を制限する措置を講じてもらうことが可能です。
ただし、第三者からの不正な請求等により、住民票上の住所が知られてしまう可能性もあります。
そのため、少々不便ではありますが、避難場所の秘匿を徹底したければ、住民票を異動しないということも考えられます。
相手の方が収入が多い場合、別居後は生活費(婚姻費用といいます。)を請求することができます。
安全の確保と並行して、この婚姻費用の請求も弁護士に行ってもらうようにするとよいでしょう。
③離婚手続き
安全の確保ができたら、離婚に向けて話し合いをスタートさせます。
離婚の方法には、協議離婚、調停離婚、裁判離婚の3つがあります。
協議離婚とは、当事者間で話し合い、合意によって離婚をする方法です。
調停離婚とは、裁判所において、調停委員会を仲介にして話し合いの手続きを行い、合意によって離婚を成立させる方法です。
裁判離婚とは、裁判所に離婚を認めるとの判断(離婚判決)を出してもらうことによって離婚する方法です。
先ほど解説したとおり、離婚判決を出してもらうには離婚原因が必要です。
各手続きのメリット・デメリットをまとめると次のようになります。
メリット | デメリット |
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※柔軟な解決とは、裁判所の考え方とは異なるけれども当事者双方にメリットのある解決のことをいいます。
メリット | デメリット |
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メリット | デメリット |
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DV離婚でも交渉は可能?
DV離婚の場合は、当事者同士での冷静かつ対等な話し合いが難しいことが多いです。
また、DVの加害者と被害者が直接話し合いをすることは、安全確保の観点からも避けるべきケースが多いです。
一方、弁護士に代理人として交渉してもらう場合は、交渉による協議離婚ができる可能性もあります。
DV加害者であっても、弁護士に対しては冷静な態度で話し合いに臨む場合もありますし、加害者の方も弁護士に依頼し、弁護士同士で話し合いを進められることもあります。
裁判所を利用した手続き(調停・訴訟)は解決までに時間がかかるため、交渉の余地があるのであれば、なるべく交渉による協議離婚を目指すべきといえます。
もっとも、弁護士から働きかけても話し合いができなかったり、条件面での譲り合いができずに交渉で解決できないケースも少なくはありません。
そのような場合は、離婚調停を申し立てることになります。
DV離婚の調停の注意点
裁判所への提出書類の注意点
調停の申立書や資料等を裁判所に提出する際には、それらの書類を加害者も見るということを念頭に置き、申立書等の記載内容から、避難先が推測されないように注意を払う必要があります。
裁判所内での注意
調停は、原則として本人の出席が求められます。
手続き内で加害者と被害者が顔を合わせる機会はないものの、同じ時間帯に、同じ建物内にいることになるため、鉢合わせたり加害者に待ち伏せされたりするリスクは残ります。
そのため、裁判所にも事情を説明し、待合室を別の階にしてもらったり、裁判所に来る時間・裁判所から帰る時間をずらして鉢合わせしないように調整してもらうなどの配慮を求める必要があります。
当事務所では、危険性が高い場合は、弁護士だけが出頭し、被害者ご本人には電話で連絡を取るようにすることもあります。
DV離婚では保護命令も検討
DV離婚の場合、保護命令の申立てを検討すべきケースがあります。
保護命令とは、DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)に基づき、被害者からの申立てにより、裁判所が加害者に対し命令を出すものです。
命令には、被害者への接近禁止命令、自宅からの退去命令、電話等の禁止命令、被害者の子への接近禁止命令、被害者の親族等への接近禁止命令があります。
これらを事案に即して使い分けて、申し立てることがポイントとなります。
保護命令の申立ては、申立書の記載や証拠の提出方法等、専門的な知識や経験がなければ難しいのが現状ですので、DV問題に詳しい弁護士へ依頼されることをおすすめします。
DV離婚の注意点
適切な離婚条件を知る
離婚の際には、親権、養育費、面会交流、財産分与、慰謝料、年金分割といった離婚条件も問題となります。
DV離婚の場合、加害者を恐れたり、加害者と早く離婚したいがために、加害者に言われるがままに不利な条件を受け入れてしまうこともあります。
しかし、そうしてしまうと、離婚後安心して生活をスタートすることができなかったり、経済的に不安定になる恐れがあります。
したがって、離婚の際には適切な条件を見極め、きちんとした取り決めをすることが重要です。
適切な条件を判断するためには、それぞれの条件に関する裁判所の考え方を踏まえたうえで、具体的な事情に即して検討することが必要になります。
専門知識や交渉技術が不可欠となりますので、離婚問題に強い弁護士に相談し、具体的なアドバイスをもらうようにしてください。
別居中の婚姻費用の適正額を押さえる
相手の方が収入が多い場合は、別居後、離婚が成立するまでの間は婚姻費用を請求することができます。
婚姻費用を請求するときは、適正額を押さえることがポイントとなります。
婚姻費用の金額は、家庭裁判所で婚姻費用を取り決める際に参照される「婚姻費用算定表」という早見表での算出結果を目安とするのが一般的です。
ただし、算定表は標準的な生活費しか考慮されていないため、特別の支出(子どもの私立学校の学費など)がある場合は、別途考慮して金額を決める必要があります。
また、算定表を参照する前提として、夫婦双方の年収が判明している必要がありますが、年収を正確に把握することが難しいケースも多いです。
そのため、具体的な金額については、離婚専門の弁護士に相談されることを強くおすすめいたします。
なお、当事務所では、婚姻費用の目安を素早く確認したいという方のために、オンラインで、かつ、無料で自動計算できるサービスをご提供しています。
自動計算ツールはこちらからご覧ください。
DVに強い離婚弁護士に相談する
ここまで解説したように、DV離婚は安全の確保を最優先に、DV加害者の特徴を踏まえつつ慎重に進めていく必要があります。
そのため、DV問題に強い弁護士に相談されることを強くおすすめいたします。
別居や保護命令の申立て、婚姻費用の請求などについて速やかに対応したうえ、加害者との間に入り、適切な条件で離婚できるように尽力してくれるでしょう。
また、DV問題に強い弁護士であれば、公的扶助についての説明も含め、離婚後の各種手続きに関しても情報提供してくれますので、離婚後の生活への不安を解消することができます。
DV離婚の弁護士費用とは?
離婚のサポートを弁護士に依頼する場合は、弁護士費用がかかります。
弁護士費用は、依頼する弁護士や依頼内容、得られた結果などにより異なります。
そのため一概に言うことはできませんが、最低でも総額で40万円くらいはかかると考えた方がよいでしょう。
詳しい金額については、依頼を検討している法律事務所のホームページや、相談時に見積もりをもらって確認するようにしてください。
なお、かつては、弁護士費用について、弁護士会としての基準がありました(旧報酬規程)。
現在は弁護士費用は自由化されており、法律事務所ごとに独自に定められていますが、従来の基準を踏襲しているところも多いので、相場の参考として紹介いたします。
【旧報酬規程の弁護士費用のまとめ】
項目 | 内容 | 相場 | ||
---|---|---|---|---|
協議段階 | 離婚調停 | 離婚訴訟 | ||
着手金 | 依頼するときに支払う費用 | 20万円から50万円 | 20万円から50万円 | 30万円から50万円 |
報酬金 | 事件が終了したときに出来高に応じて生じる費用 | 20万円から50万円 | 20万円から50万円 | 30万円から50万円 |
相談料 | 依頼前、相談の際に支払う費用 | 30分5000円 |
※上表は、弁護士会の旧報酬規程をベースに作成しています。
慰謝料、財産分与などの経済的利益がある場合は上記に加算されます。
参考:旧弁護士報酬規程
DV離婚についてのQ&A
DV夫と離婚するにはどうすればいいですか?
まずは身の安全を確保してから、交渉又は調停を申し立てて離婚に向けた手続きを進めていきます。
相手がDV夫の場合、まずは安全の確保が必要です。
安全を確保してから、離婚協議を始め、親権、養育費、財産分与、慰謝料などを取り決めていきます。
協議が難しい場合は、調停を申立て、調停でも合意がまとまらなければ離婚訴訟へ進めて行くことになります。
離婚の手続きを進めていく際には、DV夫と被害者の方が直接接触することは安全確保の観点からも避け、DV問題に詳しい弁護士に代理人として対応してもらうようにしてください。
DV離婚は難しいですか?
事案によりますが、DVの証拠を確保するのは簡単ではないこと、加害者がDVを認めずに離婚を頑なに拒否して交渉できない場合もあることなどから、離婚が難しいケースは少なくありません。
もっとも、上記のような場合でも、別居をして時間をかければ、別居が長期間続いていること自体が離婚原因の一つとして考慮され、離婚が認められる可能性があります。
また、弁護士が代理人として交渉することにより、裁判に至ることなく早期に協議離婚ができるケースもあります。
DV離婚の適切な進め方・解決方法は事案により異なりますので、具体的にはDV問題に詳しい弁護士にご相談ください。
DVで離婚すると加害者のその後とは?
孤独になる、再婚してDVを繰り返す、治療やカウンセリングなどを受けて立ち直るなど、人それぞれです。
注意するべきは、加害者が離婚後も元配偶者(被害者)に執着し、ストーカー化する場合です。
そのような危険がある場合は、別居後から離婚協議中・離婚成立後も一貫して避難先を知られないように細心の注意を払うなど予防措置を講じることが必要です。
また、実際にそのような被害にあった場合は、すぐに警察や専門家に相談するなどして対処するようにしましょう。
まとめ
以上、DV離婚について、慰謝料や手続きの進め方・注意点などについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。
DV離婚は、被害者の方の安全の確保を最優先に、DV加害者の特徴を踏まえつつ慎重に進めていく必要があります。
DVは命にもかかわる深刻な問題です。
DV被害を受けている方はできるだけ早くDV問題に詳しい弁護士に相談されるようにしてください。
当事務所には、DV問題に注力する弁護士のみで構成される離婚事件チームがあり、DV事案を強力にサポートしています。
LINEなどによるオンライン相談にも対応していますので、DVについてお困りの方はお気軽にご相談ください。